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第538号 2003(H15).02発行

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歴史の中の肥料
チリ硝石物語1

京都大学名誉教授
高橋 英一

Introduction.

 以前に本誌で「グアノ物語」と題する小文を連載した。19世紀にはこのグアノをはじめ,チリ硝石,カリ鉱石,リン鉱石といった肥料鉱物資源が相次いでヨーロッパ人によって発見され,世界中で利用されるようになった。

 19世紀はまた産業革命の進行とともに,人類が巨大な鉱物エネルギー資源(石炭そして石油)に手をつけ始めた時代であった。その結果一世紀の間に世界人口は9億から16億と2倍近く増大したが,これだけの人口を養い得る食糧生産があったわけである。それを可能にしたものの一つに,この肥料鉱物資源の利用を挙げることができる。

 人類は長い間生物起源の,すなわち有機物由来のエネルギーに依存して暮らしてきたが,鉱物エネルギーへの転換を始めたのが産業革命であった。一方食糧生産のための肥料資源もまた,有機物から無機物(鉱物)ヘ転換を始めた19世紀は,肥料革命の時代でもあった。

 革命は社会の隅々まで大きな影響をもたらす。革命的な鉱物肥料の出現も,人間の歴史にいろいろなエピソードを残した。その一例として,前回「グアノ物語」を紹介したが,今回はチリ硝石について,更に残りのカリ鉱石,リン鉱石についても物語ってみたい。

アタカマ沙漠の贈り物
沙漠というところ1)

 沙漠というのはケッペンという人の定義によると,年間降水量が254mm以下で一般に高温なところである。このようなところは陸地面積1億4,500万平方kmの14%を占めており,5大陸に12の主な沙漠が分布している。その中で南アメリカ大陸のペルーとチリにまたがるペルー-アタカマ沙漠は,面積約36万平方キロメートルで最も小さく,降水量も13mmと最も少ない。

 沙漠の土は塩類が飽和状態の場合が多く植物は育たないが,土の中の無機塩類が貴重な鉱物資源になっているところもある。たとえばカリフオルニアのモハベ沙漠からは硼砂(硼酸ナトリウム)や石膏(硫酸カルシウム)がとれ,アタカマ沙漠は硝酸ナトリウムを産する。

アンデス山脈とアタカマ沙漠2,3)

 アンデス山脈は南アメリカ大陸の西側を,その北端から南端まで7,000km以上にわたって切れ目無く続く,世界最長のコルディエラ型山脈である。コルディエラ型とは,海洋プレートの沈み込みによって生じる山脈の中,大陸の縁にある山脈をいう。

 アンデス山脈は東太平洋の玄武岩質の重いナスカプレートが,南アメリカ大陸の花崗岩質の軽い地殻の下に沈み込んで引き起こした,激しい造山運動によってつくられた。すなわち沈み込んだ海洋プレートが大陸地殻下のマントルを溶かし,密度の小さいマグマを生じる。この軽いマグマは,浮力で上昇して大陸地殻に付着固化し,一部は地表まで噴き出して火山をつくる。こうして厚みを増した大陸地殻は,それ自身の浮力で隆起し,大きな山脈をつくる(図1参照)。

 アンデス山脈の中央部は,東コルディエラ山脈と西コルディエラ山脈の二列の山脈からなり,両者とも5,000~6,000mの高度をもつ。西コルディエラ山脈には多数の火山があるが,東コルディエラ山脈は非火山性の山脈になっている。そして両山脈の間には,アルチプラノあるいはプラヤ(スペイン語で「海浜」の意)と呼ばれる標高4,000m近い高原が広がっている(図2)。

 南北に連なるアンデス山脈は東西方向の大気の流れを遮ぎるため,山脈の東側と西側で気候は著しく異なる。ペルーからチリ北部の緯度帯の東コルディエラ山脈の東側では,アマゾン河流域地帯から上昇してくる湿気のために雨量が多く,熱帯降雨林帯になっているのに対して,西コルディエラ山脈の西側では,太平洋岸から山腹まで沙漠がひろがっている。なかでもチリ北部のアタカマ沙漠は,世界で最も乾燥した土地であるが,このような極度の乾燥は,東西方向の大気の流れを遮る高い山脈の影響だけでなく,沿岸を流れる寒流が大いに関係している。

 南極から赤道方向ヘ流れる寒流(フンボルト海流)は南アメリカ大陸西岸に沿って北上するが,亜熱帯付近で深海底から湧き上がる冷水(湧昇流)が加わって更に低温になる。そのためアタカマ沙漠の海岸の町の人は,亜熱帯に住みながら海水浴ができない。

 この低温の海水の上を越えて陸の方に吹く風は冷やされて重くなり,600~700m上空で逆転層(上層より下層の大気の温度が低い境界)を形成する。海上を渡ってくる風は水分を多く含んでいるが冷たく重いので,逆転層より上ヘ上昇できず気温が低下しないため,水分が凝縮して陸地に雨を降らすまでには至らない。しかし霧を生じ沙漠に大量の露をもたらす。

 アンデスの西斜面は太平洋に向かつて次第に下降し,途中尾根の間に断層によって生じた広い盆地や段丘を残しながら,緩傾斜の砂礫質の沙漠になり,最後に高さ数百メートルの断崖となって海に臨んでいる。海岸平野はなく,イキケ(Iquique)やアントファガスタ(Antofagasta)などの港町は,この断崖にへばりつくようにして存在している。

 アタカマ沙漠はおおよそ現在のチリのアリカ(Arica)からコピアポ(Copiapo)まで1,000km余り,タラパカ(Tarapaca),アントフアガスタ,アタカマ(Atacama)の3地方にまたがっている(図3)。

アタカマ沙漠とチリ硝石4-8)

 1530年代のはじめ,スペインの征服者達がこの沙漠を通過した。彼らはここには得るものが何もないとみて「失望の地」と呼んだ。しかし3世紀の後,この地は銀,銅,硼砂,チリ硝石等の貴重な鉱物資源の宝庫であることが分かった。

 アタカマ沙漠には薄い塩の皮殻に覆われたところが随所にある。塩の大部分は塩化ナトリウムであるが,ところどころに他の塩の「島」が点在しており,その中に硝酸ナトリウムを20~75%も含むものがある。この硝酸ナトリウムを含む塊はカリーチエ(calich)とよばれチリ硝石の原鉱石として採掘される。

 チリ硝石の鉱床は,アタカマ沙漠の中央部の,海岸から40~80km離れた,海抜650~2,300mのところに,東西50~100km,南北750kmにわたって分布している。

 チリ硝石の成因とくにその窒素分の由来については,有機成因説と無機成因説の二つがある。有機成因説には1)海藻*,2)グアノ**,3)バクテリアによる空中窒素固定に起源を求めるものがある。無機成因説には1)稲妻などによる空中窒素固定,2)マグマによって運ばれてきた火山性堆積物(凝灰岩や溶岩)に起源を求めるものがある。これらの中,現在では無機成因説の2)が最も可能性が高いと考えられている。

 風化によって放出された火山性堆積物中のアンモニウム塩は,酸化されて硝酸にかわり,アルカリ分と反応して硝酸塩となる。そしてその他の塩類とともに,地表に結ぶ露,あるいはたまに降る僅かばかりの雨に溶けて下方の沙漠ヘ運ばれ,沙漠の砂礫層中で蒸発によって沈積する。

 沈積した塩類の中,硝酸ナトリウムは潮解性に富んでいるので,湿度の高いときには溶解して,共存する塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどと分離し,乾燥時に砂礫層の間で硝酸ナトリウムの結晶を生じる。これを含んだカリーチエは,沙漠の地表から1~6mの深さのところに,0.2~1mくらいの厚さで存在している。

 鉱床の層序は図4のようである。最上層はチューカ(Chuca)と称する灰色の軟らかい土層で,少量の食塩,硫酸ソーダ等を含む。第二層はコストラ(Costra)と称する硬い層で,粘土と礫が石膏,硫酸ソーダ,硫酸カリなどで固結されている。これら二層をタパ(Tapa)と称し,0.5~6mの厚さになっている。第三層はコンジェロ(Conjero)と称し,コストラに似ているが多少の硝酸ソーダを含んでいる。

 カリーチエ(Caliche)は第四層で,ソーダ,カリ,苦土等の硝酸塩,硫酸塩,塩化物などと少量のヨウ化物が砂礫をまじえて固結し,厚さは最高4m,硝酸ソーダの含量の最高は75%に達することがある。第五層はコバ(Coba)と称し,石膏の混じった粘土,礫層である。コバの下は基岩になっている。カリーチエはコバ層に爆薬を装填し,導火線を通して爆破し採掘する。

 19世紀になって埋蔵量の豊富なチリ硝石(硝酸ナトリウム)が発見されるまで,硝石(硝酸カリウム)は火薬の製造の原料として不可欠な存在であった(黒色火薬は硝石,木炭,硫黄を原料としてつくられた)。

 天然の硝石はインド,スペイン,ポルトガルなどに産するが,中でもインド(ガンジス河平原のビハール地方)には硝石を多量に含んだ土があり,浸出処理するだけで硝石を取り出すことが可能である。また暑い気候下では火を使わなくても結晶にすることができる。その上インドでは労賃が安かった。それでヨーロッパの戦争で使われた火薬の多くは,インド産の硝石からつくられた。

 当時列強は戦争に必要な硝石の入手に苦労していた。たとえば1756~1763年に起こった7年戦争の間に,イギリスは硝石の主産地であったインドの支配権を確立し,フランスは火薬不足のため講和せざるを得なかったといわれる。このような状況の下で,チリ硝石はヨーロッパ人に発見されたのであった。

* 海底に莫大な量の海藻が堆積し,その後の造山作用によって隆起して陸地となり,海藻が分解してアンモニアを生じ,さらに硝化作用によって硝酸になり,ナトリウムと結びついて硝酸ナトリウムとなったとする説。当該地方の沿海は,フンボルト寒流の関係で現在でも海藻が豊富であること,またカリーチエにヨウ素が存在することは,海藻説に有利である。

** 「グアノ物語」で述べたように,ペルー沿岸にはグアノの堆積した岩礁が多数あり,そのグアノが風に運ばれたとする説。

References

1)ライフ大自然シリーズ17:砂漠,タイムライフインターナショナル(1970)

2)赤木祥彦:沙漠への招待,河出書房新社(1998)

3)週刊朝日百科 世界の地理10:地球のすがた 朝日新聞社(1983)

4)週刊朝日百科 世界の地理116:ペルー,ボリビア,チリ 朝日新聞社(1986)

5)Encyclopaedia Britanica vol 2(1960),595 ’Desert of Atacama’

6)Encyclopaedia Britanica vol 5(1960),491 ’Chilean nitrate’

7)西洋事物起源 第4巻 316-363「硝石」,岩波文庫(2000)

8)川島禄郎:肥料学 469-470,西ヶ原刊行会(1929)

 

 

伊予柑園における肥効調節型肥料を
利用した環境負荷軽減

愛媛県立果樹試験場 生産環境室
主任研究員 石川 啓

Introduction.

 近年,環境への関心が非常に高くなってきており,農業分野においても農薬問題とともに施肥窒素による地下水汚染が全国的に大きな社会問題となっている。本県においては,1970年代に松山平野及び忽那諸島(松山市北西部の島しょ部)を対象とした大規模な地下水調査が実施されており,硝酸態窒素濃度が10mg/Lを越える地点は,松山平野全域では約10%に留まるが,松山市北部地域に限定すれば約25%に達し,忽那諸島では40%にも及ぶことが報告されている12)16)。この松山市北部地域及び忽那諸島の地質は,大部分が保肥性の低い花崗岩を母材とする砂質土ないし砂壌土地帯であり,調査当時は温州ミカン栽培の盛んな地域であったことから,ミカン園への施肥窒素が地下水汚染の一因になっていた可能性が大きいことが指摘されている12)16)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 現在,本県の中晩柑を代表する宮内伊予柑は,1970年代から80年代にかけて温州ミカンの更新樹種として急激に栽培面積が増加し,前述の調査地域も含め,施肥窒素の溶脱しやすい花崗岩を母材とする土壌地帯で本県栽培面積の約65%程度が栽培されている4)。本種は豊産性であるが着花過多になりやすいため樹勢低下を招くことが多く,しかも大玉果生産が目標とされていることから,基準の施肥窒素量は温州ミカンに比べると1.3~1.6倍とかなり多く設定されている3)。そのため,これらの地域では以前にも増して,本種栽培園からの溶脱窒素による地下水への負荷が懸念されている。

 このような状況から,著者は宮内伊予柑栽培における施肥効率の向上と省力化及び環境負荷軽減を図るため,精密な溶出コントロール性能を有し,利用率の向上が期待できる肥効調節型肥料(被覆肥料)6)8)を利用した年2回施肥法について,1995年度から場内圃場において試験を実施している(試験結果の一部は本誌1999年12月号及び2001年10月号で紹介)。

 さらに,それと平行して,1998年度~2000年度にかけて肥効調節型肥料を利用した環境負荷軽減についての現地実証試験を実施し,若干の知見が得られたので今回紹介する。

試験の概要

 1998年3月から2001年2月までの3年間,松山市北西部の宮内伊予柑国(花崗岩を母材とする砂壌土)において肥効調節型肥料区(実証区)及び化成肥料区(対照区)を設定した。肥効調節型肥料は被覆燐硝安加里(N-P2O5-K2O=14-12-14%)を供試し,対照の化成肥料は燐硝安加里化成(N-P2O5-K2O=1-10-14%)を用いた。供試園は傾斜25~30度の山なり園であり,試験開始時の樹齢27年生,栽植本数約140樹/10aであった。各試験区の規模は約10aとした。試験期間中の両区の窒素施用時期及び量は表1に示すとおりとした。

 肥効調節型肥料は,3月施用時にはリニア型40日溶出タイプとシグモイド型のものを等量混和し施用した。3月施用のシグモイド型は,1998年には140日タイプ,1999年は100日タイプ,2000年は70日溶出タイプを用いた。8月施用時はいずれの年もリニア型40日溶出タイプとシグモイド型100日溶出タイプを施用した。肥効調節型肥料区の施肥窒素量は,利用率の向上が期待できるため化成肥料区の80%とし,対照の化成肥料区は本県施肥基準量とした。施肥方法は両区とも地表面への全面施用とした。

 調査は,1998年4月から2001年2月まで土壌中及び土壌水中の硝酸態窒素濃度を約1ヵ月間隔で測定した。土壌は各区5ヵ所から10cm層及び30cm層に分けて採取し,採取位置は樹幹外周部の直下とした。土壌水は各区8カ所から土壌溶液採取器(大起理化製)を用い,地表下1mの深さの土層から採取した。

 各区から樹勢の中庸な樹を5樹選び,毎年5月から10月にかけて約1ヵ月間隔で樹冠赤道部の不着果新梢から新葉を30葉採取し,葉中窒素濃度と葉色値(MINOLTA製SPAD-502使用)を測定した。また,12月上旬の収穫時に収量調査を行い,12月下旬には定法に従って果実分析を実施した。

test result

(1)土壌中の硝酸態窒素含量の推移

 供試園における地表下10cm層の土壌中の硝酸態窒素含量の推移を図1に示した。化成肥料区では,試験開始年の1998年は7月までは低く推移したが,8月から急激に増加し,9・10月にピークを迎えた。1999年は全体的に低く推移し大きなピークは現れなかったが,4月・6月及び12月に含量の増加がみられた。試験開始3年目の2000年は,7月になると急激に増加してピークを迎え,それ以降の減少は比較的少なく,1月まで高レベルで推移した。肥効調節型肥料区は,試験期間中概ね化成肥料区と類似した増減パターンを示したが,1998年の4月から6月及び8月,1999年の10月,2000年の5・6月以外は化成肥料区に比べ低く推移し,その差は化成肥料区の含量が高かった1998年の10月以降及び2000年の7月以降に大きかった。

 30cm層の窒素含量は,化成肥料区,肥効調節型肥料区ともに一部の時期を除くと10cm層と類似した増減パターンを示した。10cm層と窒素含量の高低を比較すると,1998年の8・9月及び2000年の7月以降のように含量がかなり高まった時期は30cm層の方が低い傾向が認められたが,全体的に含量が低かった1999年はほとんど差がみられず,むしろ30cm層の方が高い場合もあった。また,肥効調節型肥料区と化成肥料区の含量を比較すると,1998年の6月及び2000年の5・6月以外は常に肥効調節型肥料区の方が低く推移した(図2)。

(2)土壌水中の硝酸態窒素濃度の推移

 地表下1mの深さの土層から採取した土壌水中の硝酸態窒素濃度については,1998年の4月から10月までの期間は化成肥料区と肥効調節型肥料区の差が比較的少なく,化成肥料区の方がやや高い傾向であった。しかし,化成肥料区の濃度はその後急速に高まり,1999年の5月から7月の間は100mg/Lを超過した。その後,やや減少して1999年の8月から3月にかけては70~80mg/L前後で推移したが,2000年の4月以降は再び急増しピークの10・11月には150~160mg/Lにまで達した。

 一方,肥効調節型肥料区の濃度は,1998年の10月から2001年2月の試験終了時まで常に化成肥料区より低く推移した。また,肥効調節型肥料区の増減パターンは化成肥料区に比べて緩やかであり,時期や年次間差が少なかったため,化成肥料区との濃度差は年次とともに拡がった(図3)。

 化成肥料区の年平均濃度は,1998年度61mg/L,1999年度86mg/L,2000年度133mg/Lであり,肥効調節型肥料区は1998年度46mg/L,1999年度43mg/L,2000年度51mg/Lであった。また,3ヵ年の平均濃度は化成肥料区99mg/L ,肥効調節型肥料区51mg/Lとなった。

(3)葉中窒素濃度及び葉色

 1998年の5月から10月にかけての葉中窒素濃度は,6月は肥効調節型肥料区が高く,9月は化成肥料区が高かったが,その他の時期は両区に差異がみられなかった(図4)。1999年は,6月から8月の間は両区に差がみられなかったが,9月は肥効調節型肥料区が,10月は化成肥料区がやや高かった(図5)。2000年は,6月以降になると肥効調節型肥料区が常に高く推移した(図6)。

 葉色値は葉中窒素濃度を反映し,両区とも類似した増減パターンを示した(図7)。

(4)収量及び1果重

 3ヵ年間の1樹当たり及び樹容積当たりの収量は,年次間差はみられるが処理区間内のバラツキが大きく,有意差は認められなかった。1果重についても同様であった(表2)。

(5)果実外観及び果実品質

 果実外観は,果皮色(a値)が1999年に肥効調節型肥料区の方が優れる傾向がみられたが,その他の調査項目については有意な差が認められなかった(表3)。

 果実品質については肥効調節型肥料区のBrix(糖度)が,1998年は化成肥料区より低かったが,1999年は逆に高かった。また,クエン酸含量は,1998年及び2000年において肥効調節型肥料区の方が低い傾向にあった(表4)。

consideration

 現地実証試験における3ヵ年の土壌中の硝酸態窒素含量の推移をみると,化成肥料区では一部の時期を除くと,施肥直後に速やかに増加する傾向が認められ,硫安を用いて実施した坂本の報告13)と類似しており,化成肥料の持つ速効性が反映されたものと思われた。また,肥効調節型肥料区も判然としない時期はあるが,概ね溶出試験から推定された各タイプの溶出期には増加する傾向がみられた。ただし,8月下旬施用のシグモイド型100日タイプについては,12月下旬までの溶出率が50~60%程度(本誌2001年10月号参照)であるため,3月上旬施用のリニア型40日タイプの溶出期とかなり重複する部分があったと考えられた。

 降水量と土壌中の硝酸態窒素含量との関係については,概ね降水量の多い時期に含量が減少する傾向がみられ,特に1999年は施肥後においても増加が認められない時期があり,地下1mよりも深く速やかに流出したものと考えられた。また,10cm層と30cm層を比較しても,1999年は両区の差が少なく,降雨の影響が大きいと推測された。

 宮内伊予柑の根群の垂直分布は,大部分が地表下25cm以内の浅層であることが知られており15),地表下1mの深さの土壌水中の硝酸態窒素は樹体に吸収されずに溶脱するものと見なすことが出来る。

 両区の土壌中における3ヵ年の硝酸態窒素濃度については,肥効調節型肥料区の施肥窒素量が80%であったことを考慮すると,試験開始年の1998年度は僅かに肥効調節型肥料区の方が低い程度であったが,1999年度以降は明らな差が認められた。これは,肥効調節型肥料区においては20%を減肥しているので総施肥量が少なかったこと,さらにはその少ない施肥量にもかかわらず,伊予相の樹体に効率的に吸収されたことが原因であると考えられる。この結果は,加治ら10)が茶園で実施した実証試験の結果と一致し,肥効調節型肥料の特性に起因するものと考えられた。

 また,福島ら5)は樹園地で施肥や管理作業が少なく降水量も比較的少ない冬季における硝酸態窒素濃度は流出水量に反比例する傾向があることを報告している。本試験における化成肥料区が2000年10月以降に極めて高濃度で推移した要因の一つとして,この時期の少雨の影響が大きいと考えられた。

 施肥量の低減が宮内伊予柑の樹体に及ぼす影響については,高木(15)及び林田7)の報告があり,前者は葉中窒素濃度の低下を,後者は葉中窒素濃度の低下及び果皮の紅が劣ることを指摘している。

 本試験では肥効調節型肥料区を20%減肥して樹体への影響を検討したが,両者に共通する葉中窒素濃度の低下は3ヵ年間認められず,むしろ2000年は肥効調節型肥料区の方がやや高く推移した。また,果皮色についても1999年は肥効調節型肥料区のa値が高い傾向がみられた。これらのことから,少なくとも3ヵ年間は20%減肥の影響が認められず,葉中窒素の推移から判断すると化成肥料区と同等以上の肥効があったものと考えられた。ただし,両区におけるBrix及びクエン酸含量の差異についての原因は不明であるが,年次間に一定の傾向がみられないことから施肥の影響とは考えにくく,他の要因によるものと推測された。

 温州ミカンの施肥窒素利用率は,解体調査等からの推定値では約50%とされ2)15Nトレーサ一法を用いた報告では春肥25%,夏肥61%,秋肥41%とされる1)11)。このことは,逆に施肥窒素の約50%以上が利用されていないことを意味するため,環境負荷の軽減を図るためには,この利用率を向上させることが重要なポイントとなる。

 本試験において,肥効調節型肥料区は土壌中の窒素含量が低く推移したにも関わらず,葉中窒素の低下が認められなかったことから,利用率が向上した可能性が示唆された。このため,今後は水稲17),野菜14),飼料作物9)等で報告されているように,15N標識肥効調節型肥料等を利用して,本肥料を用いた際の利用率を検討し,低減可能な施肥量を明らかにする必要があると考えられた。

Conclusion

 以上のように,肥効調節型肥料を利用した施肥法は,現地伊予柑園において環境負荷軽減効果が認められ,本肥料は施肥に起因する環境問題対策の有力な味方になると思われる。また,施肥回数削減による省力効果も魅力的である。ただし,果樹園において地表面施用を前提とした場合,気象変動による溶出の不安定さを軽減する対策,最適なシグモイド型タイプの選定,あるいは急峻傾斜地における施肥肥料の滑落程度の確認等,未解決の問題が残されており,さらに検討を重ねる必要があると考えている。

works cited

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2.浅見輿七(1951)果樹栽培汎論 土壌肥料編.206pp 養賢堂

3.愛媛県農業経営課(2000)愛媛県施肥基準:38

4.愛媛県農産園芸課(2000)果樹統計資料及び果樹栽培状況等表式調査:18

5.福島忠雄・河村宣親(1989)急傾斜樹園地における栄養塩類の流出特性に関する調査研究 農土論集142:75-82

6.羽生友治(2001)農業技術体系 土壌肥料編 7-1:肥料135-144の15 農文協

7.林田至人・犬塚和男・富永重敏・後田経雄(1994)幼木~若木段階の宮内伊予柑の生育,収量 九農研56:67

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9.井上博道・伊藤豊彰・三枝正彦(2000)全量基肥・接触施肥・不耕起栽培におけるデントコーンの養分吸収と収量性 土肥誌71(5):674-681

10.加治俊幸・鳥山光昭・内村浩二(1999)被覆尿素を利用したチャの省力・低投入型施肥法 土肥誌70(4):567-570

11.久保田収治・加藤忠司・赤尾勝一郎・文屋千代(1976)重窒素利用による,温州ミカンの窒素の吸収とその体内移行に関する研究 四国農試報29:55-66

12.真木強・江口茂・山竹定雄・武智拓郎・島本勉(1974)愛媛の水(第4報)忽那諸島における浅層地下水の化学的研究 愛媛衛研年報36:16-20

13.坂本辰馬(1963)温州ミカンの土壌ならびにその管理に関する研究 愛媛果試研報3.115p

14.高橋正輝(1998)肥効調節型肥料による施肥技術の新展開5 野菜の施肥技術(その1)土肥誌69(2):201-205

15.高木信雄(1987)宮内イヨカンの生産性向上に関する研究 愛媛果試研報9.71p

16.武智拓郎・江口茂・真木強・山竹定雄・渡部三男・島本勉(1977)愛媛の水(第8報)愛媛県松山平野における地下水中の硝酸性窒素濃度分布 愛媛衛研年報38:21-24

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肥料と切手よもやま話(5)

越野 正義

侯 徳榜と中国の化学工業

 塩アン(塩化アンモニウム)はソルヴェイ法で炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を作る際に併産される。その製造工程では原料の塩化ナトリウムにアンモニアと二酸化炭素を吹き込んで反応させ炭酸水素ナトリウムを析出させるのであるが,この際塩アンを始めに析出させて反応液を循環させれば原料塩の利用率が高くなることを,侯 徳榜(Hou Debang)が1932年にアメリカで出版した本で理論的に示した。この理論を基にして,わが国の塩アン肥料工業が発展したのである。

 この切手には塩アンの製造装置が描かれ,反応式も書かれている。ところが工程図中でCO2なるべきところがCH2となっているのが愛敬である。

 侯 徳榜は中国の化学工業の父と賞賛され,科学分野での貢献者のシリーズの一枚としてこの切手が発行された。2年前に中国のアンモニア工場を見学に行ったとき,工程はどこから導入したかと質問したら,侯 徳榜の開発した国産技術だと胸を張って答えられた。地元産の石炭を原料とし製品は炭酸アンモニウム。硫酸は不要、尿素製造の高い装置も不要という自主厚生の中国向きの工程だったのである。

 炭酸アンモニウムは容易にアンモニアに分解して臭いがひどく,最近では中国の農家も喜ばない。石炭を原料とすれば,二酸化硫黄,塵埃の発生対策が必要でやっかいであり,近代化が必要だろう。しかし中国ではエネルギーの70%を石炭に依存しており,また資源の耐用年数も長いから,その利用を止めるわけにはゆかないのである。

 (財 日本肥糧検定協会 参与)

 

 

野菜に対する被覆カリ肥料の
肥効特性と施用効果

Kumamoto Agricultural Research Center
農産園芸研究所 土壌肥料部
部長 郡司掛 則昭

Introduction

 環境保全型農業の推進において肥効調節型肥料が重要な役割を果たしており,被覆尿素肥料を始めとする窒素質肥料がその主役であることは言うまでもない。これは肥料窒素の地下水等農業を取り巻く環境へのインパクトが大きいことに他ならないが,他の肥料成分の動向にも注視する必要がある。

 たとえば,最近の土壌環境基礎調査の結果によれば,野菜栽培ほ場の養分実態は家畜ふん堆肥の過剰施用や連作のためカリウムやリン酸等の養分集積が進行しているという指摘がなされている。

 これらの養分集積は施肥された窒素以外にも肥料成分による環境負荷の危険が増大している問題を提起しているが,それ以上に認識しなければならないことは作物の健全な生育に対して深刻な影響を及ぼすかもしれない点である。とりわけ,生理障害の発生が起こりやすく土壌養分の過不足や不均衡が生産物の品質低下に結びつく野菜栽培においては,土壌中の肥料成分相互のバランスを健全に保つことが「高品質」農産物生産にとって最も重要な事項であることを忘れてはならない。

 被覆カリ肥料はこのような状況に対処できる肥料として注目に値するものである。これは従来の速効性カリ質肥料に肥効調節ができる機能が付与された肥料であり,被覆肥料のもつ省力だけでなくカリウムの施肥効率が高い施肥管理が期待される。ここでは,野菜に対する被覆カリ肥料の野菜に対する肥効の特徴と利用法について紹介する。

2.被覆カリ肥料の肥効特性

1)被覆カリ肥料の肥効に影響する環境要因

 被覆カリ肥料は速効性の硫酸加里をポリオレフィン系樹脂でコーティングした肥料であり,LPコートと同様に温度変化に対応して徐々に肥効を発現する肥効調節型肥料である(図1)。よって,この肥料の肥効発現に最も強く影響する要因は温度であるが,土壌水分および土壌中のカリウム等養分動態の影響もあると考えられる。

 被覆カリ肥料の野菜に対する肥効を把握するには,これらの要因がどのように影響するのかを明らかにしなければならない。このため,アブラナ科の野菜であるコマツナを用いて栽培試験を実施した。すなわち,昼温が30℃,夜温が20℃に温度をコントロールした温室内において土壌中の交換性カリウム含量を変えた2種類の黒ボク土を使い,カリウムの施肥は被覆カリ肥料としてリニア型のカリコートL70およびシグモイド型のカリコートS60を用いて,他の肥料成分は全て同じ条件に設定した上で地上部の生育量や養分吸収について検討した。

2)野菜の生育量に及ぼす影響

 カリ質肥料の施肥がコマツナの生育量に及ぼす影響は土壌中の交換性カリウムの存在量によって大きく影響される。コマツナの場合,生育は播種後1ヶ月頃から急激に大きくなるパターンであるが,交換性カリウムが低い土壌ではカリ質肥料の種類は生育量にはほとんど影響しない。一方,土壌中の交換性カリウムが高い条件では加里無施肥>カリコートL70>カリコートS60>速効性硫酸加里の順に生育量が小さくなり,土壌中の交換性カリウムの大小が野菜に対するカリ質肥料の肥効に少なからず影響することが認められる(図2)。このように被覆カリ肥料が野菜の生育量に対する肥効は速効性の硫酸加里に比較して概して小さく,土壌中の交換性カリウムの多少にかかわらず安定した肥効を示すと考えられる。

3)養分吸収に及ぼす影響

 被覆カリ肥料で認められる最も際立った特徴は,速効性の硫酸加里に比較して養分拮抗が少ないことである。ここで「養分拮抗」とは,作物体に吸収されたカリウム濃度が上昇するために,カルシウム等他養分の吸収が阻害され,養分吸収が下がる現象を言う。

 コマツナによる養分吸収をみると,土壌中の交換性カリウム含量の大小に関わらず被覆カリ肥料の方が速効性硫酸加里に比べてカリウムだけでなく,窒素やカルシウムなど他の養分吸収量が増大している(図3)。これは土壌溶液中のカリウム濃度が速効性の硫酸加里施肥では生育初期から常時高く維持されるのでカルシウムが吸収されにくくなるのに対して,被覆カリ肥料を施肥した場合にはゆっくりと土壌溶液にカリウムが供給されるため,カルシウムがカリウムよりも相対的に高く維持される(図4)。このため,カリウムとカルシウムの間において養分拮抗が少なく,両者とも効率よくコマツナによって吸収されるメカニズムが働くと考えられる。

 以上のように,被覆カリ肥料は土壌中でのカリウム存在量によってあまり影響されずにカリウムをゆっくりと持続的に供給する特徴があると考えられる。このような被覆カリ肥料の特徴をうまく活かす利用法としては,カリウムと拮抗を起こしやすいカルシウム等の吸収を強く要求する野菜,たとえば果菜類に対して有効であると考えられる。

3.果菜類に対する施用効果

1)夏秋雨よけトマト

 夏秋トマト栽培は高温期での窒素等の養分吸収をいかにスムーズに行えるかが,収量をアップさせ高品質果実を安定して生産するための管理上のポイントである。夏秋トマト(桃太郎8)に対する溶出タイプの異なる3種類のシグモイド型LPコートを用いた全量基肥栽培において,カリ質肥料としてカリコートL70および560を施肥基準に準じて施肥した場合,茎葉中カリウム濃度は生育全般にわたって速効性硫酸加里>加里無施用>カリコートL70≧カリコートS60の順に推移する。

 一方,茎葉中のカルシウム濃度はカリウム濃度の上昇に相反して低下する養分拮抗が認められるが,養分拮抗の程度はカリコートを施肥した場合は概して小さく,カリコートの施肥によって両養分がスムーズに吸収されると考えられる(図5)。

 カリコートの施肥によって養分吸収が効率よく進んだ効果は収量アップおよび品質向上という形で現れる。この場合,トマトの果実収量は速効性の硫酸加里施肥よりも被覆カリ肥料が6~17%高く,障害果発生率が最大16%低下する。障害果では特にカルシウム欠乏が原因とされる尻腐れ果の発生が低く抑えられる傾向が認められる(表1)。これは被覆カリ肥料施肥によるカリウム供給がトマトによるカリウムの吸収だけでなく,これと拮抗しやすいカルシウムのスムーズな吸収を促した結果であると解釈される。

2)夏秋露地ピーマン

 ピーマンは元々高温を好む野菜であるが,盛夏期に収穫最盛期を迎える夏秋期の作型においてはトマトと同様に高温期でのスムーズな養分吸収が収量および品質の安定化に重要である。夏秋ピーマン’あきの’の露地栽培において被覆カリ肥料をカリ質肥料として用いた栽培試験では,施肥基準に準じて被覆カリ肥料を施肥すると,速効性硫酸加里に比較して収量は16~18%の顕著な増加と2~4%の障害果発生率の低下が確認されている(表2)。また,カリウムの施肥量を施肥基準(30kg/10a)から50%減肥することによって,ピーマンの果実収量は18~22%増加し,障害果の発生率も3%程度減少する試験結果が得られている。

3)被覆カリ肥料の効果発現のための管理条件

 以上のように,被覆カリ肥料の施用効果は持続的なカリウム供給とカルシウム等との養分拮抗の少ない肥効特性を示すため,果実収量が増加するだけでなく果菜類で最も問題となる障害果の発生が抑制されるなど品質に対する効果が高い肥料である。

 この被覆カリ肥料の示す効果を保証するには,他の管理が適正に行われることが前提であることは言うまでもない。窒素を始めとする施肥管理や土づくり資材の施用,土壌診断による土壌養分実態の把握,栽培管理では生育だけでなく被覆肥料のカリウム溶出特性に大きく影響する土壌水分を適正域に保つための水管理などが伴ってこそ,この肥料の性能が確実に発揮されると考えられる。

4.今後の課題

 環境保全型農業技術の基本は窒素を中心として土壌中に余分な養分を入れない,残さない,流さない管理を実行することであり,これらをクリアーできる技術開発が生産現場において導入が急がれる施肥技術であることに異論はない。

 しかし,農業生産の当初の目的は消費者が満足する高品質農産物の提供-最近では消費者の目は安心・安全な農産物にシフトしているようであるが-にあることを見逃してはならない。長期にわたる農産物価格の低迷から脱却して,売れる「高品質な」農産物づくりのための技術開発や技術普及にとって今回紹介した被覆カリ肥料のような機能性豊かな肥料が頼もしい味方となり,一層需要が増してくるに違いない。